冠詞の謎に迫ろう!
その一
欧州の言語学習で日本人生徒が一番悩むのは「冠詞」。この小さな単語 ― 英語では「the」「a」、イタリア語では「il」「un」― が意味なき混乱とストレスの原因をもたらすのは一体何故だろう。
今日はその謎に迫ってみよう!
目次
はじめに
では、さくっとイタリア語の冠詞を見ていこう。冠詞については連載で紹介していくので今回はシリーズ第一段!
冠詞を使う他の言語の中では、冠詞の使い方がちょっと違う言語もある。
でも、以後の説明の基本的なポイントは、冠詞を使うどんな言語にも当てはまる。
例えば、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、そしてベンガル語やマオリ語などといった言語では冠詞の使い方がすごく似ているよ!
冠詞って何?
この冠詞シリーズの連載を読んだ後、あなたはきっと冠詞の意味をもっと分かっていると思う。
冠詞を使う理由・方法をきっと理解できるはず!
でも、こうやって言う人がいるかも、「はい、説明は分かりました。でも、話す時に冠詞を使えるかどうかは分からないなぁ。」
そんな風に思っても心配しないで! それはまったく普通のリアクション。必要なことは習っている言語にしっかりとふれること!ローマは1日にしてならず、でしょ?
実は、冠詞は人気のテーマ。だから、私は皆さんの好奇心を満たせるように新たな観点で冠詞を見てもらおうと思ってこの連載を書いているよ。
実用的で自然なアプローチで言語を身につけられたら、文法の説明なんてなくたっていいね。
ためになる経験
今まで多くの日本人の生徒に語学を教えてきた私の経験から言えることは、日本人の皆さんは冠詞の使い方を身につけようと頑張り過ぎる。それは、日本人の「冠詞」に関する大きな苦手意識と誤った考えにつながることが分かっている。
よく言えば正しい冠詞の置き方を習得して、練習問題の空欄を埋めようと努力する。
しかもほとんどの文法本で用いられている定義 ―「定冠詞」と「不定冠詞」― はあまり理解できない。つまり、「定冠詞」という名前は実際に何を表している?
それには、観点を変えることをお薦めするよ。まず冠詞の意味を理解しようとすれば、うまく使えるようになる。
分かってるよね、冠詞にはちゃんと意味がある!オプションではないんだよ!
正直私はイタリア語を学ぶ日本人生徒のこの観点を理解するのに少し時間がかかった。ある時生徒から言われたことがある、「冠詞って、おまけじゃないの?」それは私には目から鱗の経験だった。
違う!おまけじゃない!冠詞の意味:その一
ほとんどの欧州の言語 ― おおざっぱに言えば、スラブ言語以外のすべて ― には冠詞がある。
この小さな単語は、2つのかなり単純なことを表すために名詞の直前にくっつく。
では、一番簡単なものを最初から始めよう。
- あなたが話していることを、話しかけている人に(=聞き手に)すでに言ったかどうか
Nella metro c’era un bambino
「地下鉄に子供がいた」
よく見てみよう
- “nella metro” → 地下鉄に
- “c’era” → 〇〇がいた
- “un bambino” → 男の子
分かった?「bambino」の前に「un」を入れたよ。これはこの男の子のことを聞き手に初めて話すことを意味している。
次に、「男の子がハムスターを手に持っていた」と聞き手に話します。
Il bambino aveva un criceto
「(その)男の子はハムスターを手に持っていた」
訳はこの通り
- “il bambino” → 男の子
- “aveva” → 〇〇を(手に)持っていた
- “un criceto” → ハムスター
聞き手にすでに話した、同じ子供のことを言っているから、「bambino」の前に「il」を入れて表してるよ。これはオプションじゃない。イタリア人はこうやっていつも話すだけ 🙂
あなたに初めて話しているから「criceto」の前に「un」を入れているよ。
では、ハムスターが子供を突然噛んだと言う場合は?
All’improvviso, il criceto ha morso il bambino
「突然ハムスターが男の子を噛んだ」
日本語では
- “all’improvviso” → 突然
- “il criceto” → ハムスター
- “ha morso” → 噛み付いた
- “il bambino” → 男の子
聞き手は、話し手がどの子供、どのハムスターかということを知っていることを、話し手は知っている。だから両方の単語の前に「il」を入れたよ。
イタリア語ではほとんどの場合、名詞の前に冠詞を入れる。私たちは情報を、今話している人と共有できているかどうか、そこをきちんと表すために冠詞を使うんだ。
- 「un bambino」の「un」→ 聞き手は、話し手がどの子供のことを話しているのか知らないことを、話し手は知っている
- 「il bambino」の「il」→ 聞き手は、話し手がどの子供のことを話しているのか知っていることを、話し手は知っている
これが冠詞の意味!これ以上でも以下でもないよ!
日本人にとって冠詞を使うことは、異国風、変、少し厄介なことだと思うかも。でもひとつ言えることがある、冠詞は「おまけ」じゃないよ! 😀
例えばこんな風には言えない、「bambino aveva criceto」。ネイティブスピーカーとしてこんな言葉を聞いたら、すぐに何か大事なことが欠けているって分かる。言い換えれば、イタリア語に聞こえない!
イタリア語の複数形はどうなるの?
クラス全体で一緒に旅行しているのを見た場合。例えばこのように言えるよ。
Nella metro c’erano dei bambini
「地下鉄に子供が数人いた」
意味は次の通り
- “nella metro” → 地下鉄に
- “c’erano” → 〇〇がいた
- “dei bambini” → 数人の子供
ここでは、「i」で終わっている「bambini」は1人以上子供がいたことを表している。その前に冠詞の「dei」が入っている。なぜなら、私がどの子供たちのことについて話しているか、聞き手が知らないことを私は知っているから。
その後に、同じ子供たちが歌っていたということを言うと。
I bambini cantavano
「子供たちが歌っていた」
日本語では
- “i bambini” → 子供たち
- “cantavano” → 歌を歌っていた
今回、歌っていた子供は、あなたにすでに話しているのと同じ子供。だから「bambini」の前に「i」を使って表している。
要約すると
- 「dei bambini」の「dei」→ 聞き手は、話し手がどの子供のことを話しているのか知らないことを、話し手は知っている
- 「i bambini」の「i」→ 聞き手は、話し手がどの子供のことを話しているのか知っていることを、話し手は知っている
分かったかな?ここでは、1人以上の子供のことを話していますから、異なる2つの冠詞を使ったよ(「il」のかわりに「i」、「un」のかわりに「dei」)。でもこの冠詞の意味は変わらないよ!さっきのと同じ!
- 「dei」は「un」の複数形、名詞の複数形の前で使う
- 「i」は「il」の複数形、名詞の複数形の前で使う
挑戦しよう!
歌っていた子供のうち、ひとりが突然ボールを見つけた場合には?
どう言えるのか一緒に考えよう。
イタリア語のボールという単語は「pallone」。まだボールのことについてあなたに話していないよね。言い換えれば、どのボールのことを話しているのか、あなたが知らないことを私は知っている。イタリア語ではこれをハッキリと表さないといけない。「pallone」の前にはどの冠詞が来るか分かるかな?ちょっと考えてみよう。
「un pallone」と答えたら、正解。
でもそのボールを見つけた子供は?
グループとして子供たちのことはすでに話している。でもボールを見つけた子供のことを個人的にまだ話題にしていない。
言い換えれば、どの子供のことを話しているのか分からない。だから「un bambino」というよ。
これが文章全体
All’improvviso, un bambino ha trovato un pallone
「男の子(子供たちの中の1人)がサッカーボールを見つけた」
一語一語では
- “all’improvviso” → 突然
- “un bambino” → 一人の男の子
- “ha trovato” → 見つけた
- “un pallone” → ボール
同じ子供とボールについてまだ何か話し続ける場合には、聞き手は誰のことについて話しているかもう分かっている。冠詞の「il」が入って来るよ。
例えば、同じ子供がかわいそうな男の人にボールを投げた、と言ってみよう。
Il bambino ha lanciato il pallone su un signore
「その子供が男の人にボールを投げた」
意味は次の通り
- “ha lanciato” → 投げた
- “un signore” → 男の人
同じパターンがまた繰り返される。話しているのがどの子供でどのボールかあなたはもう分かっている、だから「il bambino」と「il pallone」。でもボールを投げられた男性は話題に新しく入ってきた人。そのため、「signore」の前に「un」を入れて表しているよ。
最後にかわいそうな男の人が怒ってしまったことを話すよ!
Il signore si è arrabbiato!
「男の人が怒ってしまった!」
日本語では
- “il signore” → 男の人
- “si è arrabbiato” → 怒ってしまった
みんなの予想通り、「signore」の前に「il」を入れたよ。どの男の人のことを話しているのか、聞き手の人は理解しているからね。
そろそろ2種類の冠詞の使い方のハッキリとしたイメージができたはず。聞き手と話題を共有しているか、しないかの違いだよ。
次のエピソードでは、冠詞で伝わる情報について見ていこう!次のエピソードでもまた別のすごく冠詞の重要な部分が分かるよ。
こうご期待、alla prossima(またね)!
Arturo